優れたイメージ作品にはストーリーが込められています。 作者によって設定されたさまざまな要素から手がかりを得て、見る側は意識的、または無意識的にストーリーを推測します。 写真や絵画など、あらゆるビジュアル作品において物語を見つけることができたとき、見る側はそのイメージに釘付けになります。
文字や口語で表現される物語だけでなく、アートやデザインでも、フレーム内の視覚的要素で物語を紡ぎ出すことができます。 形と色が調和し、それによって見る側の創造力をかきたて、自然と目がイメージの上を一つずつ移動して物語を探します。これにより、言葉では言い表せないストーリーが生まれることがあります。
「百聞は一見に如かず」という言葉はあまりにも使い古された言い回しで、むしろここで使うことすら少しためらいますが、素晴らしいイメージ作品には瞬間や状況を描写されているだけでなく、デザイン要素の相互作用なども盛り込まれており、見る人にストーリーを語りかけてくれるのです。
素晴らしいイメージ作品は人の心を打つことができるため、広告にも不可欠なツールになっています。建築業界も他の業界と同様に、コンセプトを紹介するだけでなく、クライアントを魅了できるイメージが常に必要です。建築ビジュアライゼーションの経験が豊富なデザイナーは、ビジュアルにおけるストーリー性の重要さをよく理解しており、ビジュアライゼーションに常にストーリーを盛り込んでいます。 今回の記事では、視覚的なストーリーテリングを可能にする工夫について説明していきます。
コンテキストとは、物事が起こるためのヒント、またはありのままの状況を説明するものです。
たとえばキャラクター デザインでは、キャラクターの衣服やアクセサリーの要素から、キャラクターの職業、その場所の気候などを判断でき、これがコンテクストとなります。
この画像に興味をそそられたとして、よく観察してみると、次のように推測できます。
建築ビジュアライゼーションでも同じようにコンテキストを使用できますが、提案はより雰囲気に依存し、将来のここに住む人達の傾向や、彼らがどのような好みを持つのかなどによっても変わってきます。
たとえば、この素敵なインテリアを見てみましょう。 素材がそのまま使われていて、多くの視覚的な関心を呼び起こします。 ここに住む人は、最低限の生活用品だけを必要とし、怠惰な生活とは程遠い真面目な生活を送るタイプの人物だと想像できるかもしれません。 コンクリートの壁には独特の質感があり、その向こう側の壁、絵画、階段、テーブルセットの暖色は、灰色を分散するように配置されており、灰色に圧倒されないようになっています。フレームの右側から差し込む自然光により、太陽が差し込む広い窓を連想させます。太陽の光が部屋を淡い黄色に染め、とても家庭的で魅力的な雰囲気にしています。
また、住民が読書家であり、芸術にも関心があることがわかります。 シーリングライトの遊び心のあるデザインは、居住者が実用主義者ではないことを示唆しています。 おそらく男性、または少なくともかなり男性的な美学を持ち、伝統的な芸術家や美術評論家のような静かで慎重な性格の人物だと伺えます。
自然に私たちは独自の解釈をするわけですが、クライアントの性格に合った空間を作る必要があります。
クライアントが何を求めているかわかったら、それを再現するためのデバイスについて理解する必要があります。それでは、イメージからストーリーを構築するためのツールを紹介していきます。
では、3ds Max + Corona wizardで制作したTomasz Sobolによるレンダリングを見ていきましょう。
色彩はほぼ間違いなく、あらゆるビジュアル作品において最も主観的なものです。 色同士の相互作用、または色の有無は個人的な好みにも依存し、服装、好きな場所、住む場所の色で自分の好みを表現します。 この記事では、視覚的にストーリ性を表現するためのデバイスについて説明していきますが、色については少し技術的にも理解する必要があります。
色は光と密接に関係しています。 ビジュアル アートとデザインでは、色の温度は赤と青の間で表現されます。 簡単に言えば、赤みがかった色は暖色、青みがかった色は寒色と見なされます。 暖かい色は温もりのある雰囲気を作り出すことができ、寒色は優雅さや神秘的な雰囲気を与えることができます。空間内の色の組み合わせは、物体そのものの色や光源から発せられる光によって生み出される色により、全体的な雰囲気が決まります。空間には暖色と寒色の両方が存在し、たとえば絵画では、暖色の光は寒色の影を生成し、その逆も生み出します。
メインの各色には、いくつかのグラデーションがあります。これらのグラデーションは色相として知られており、たとえば、色がオレンジ色に近いか、紫に近いかなどを決定します。 空間の色合いを考慮するということは、本質的にそれらがどれほど「明るい」または「豪華」であるかではなく、どの色がその空間を占めるかを考慮することです。
「この黄色はどれぐらい黄色いのか?」 などという疑問がわいたことがあるかもしれません。「黄色」に関しては、彩度に当てはめて考えることができます。彩度の高い色はより視線を集める傾向があり、「ラウド」と表現されることもあれば、彩度の低いカラーは「ミュート」と呼ばれることもあります。
この画像にはさまざまな色相が散らばっています。ピンク、ラベンダー、黄色が主な色です。 黄色の要素はすべての彩度が異なります。 たとえば、絵画の黄色が右端のランプよりも彩度が豊かであることがわかるでしょうか。
色は、特定の色のグラデーションがどれだけ「明るい」か、またはどれだけ白に近いかで表すことができます。 小さい頃にマーカーやクレヨンを使っていた人は、「ライトブルー」や「ダークレッド」という色合いがどのようなものなのか疑問に思ったかもしれません。また、色合いと明暗という用語は、白または黒が色とどの程度混合されているかを表すためにも使用されます。
色とその特性について理解したところで、Joniの作品をもう一度見てみましょう。
床に暖色系の色 (黄色、オレンジ、赤) が豊富に使われていることで、灰色の壁があるにもかかわらず、部屋に暖かみを与えていることは以前に説明しました。 階段から横の壁への彩度に注目し、そして絵の青と黄色、明るいオレンジと暗いオレンジに目を移した後、遠くのオレンジに目を向けるかもしれません。
暖色はこれ以上加えると多すぎるので、グレーを使用することで部屋に静かさを演出することができ、静寂を破るようなうるさい色はありません。このイメージで使用されている色は薄く、色相が非常に近いため、彩度のコントラストを認識できるのです。 部屋の色相により、住人のタイプを示唆することもできます。
色による視覚的なストーリーテリングについて、さらに詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
光は、イメージを構築する上で多くの側面に関与しています。 要素の形を表し、ムードを作り、詳細を示し、同じような見た目にも個性を追加できます。
たとえば、この画像では、窓からこぼれる光が椅子の張り地のしわを際立たせ、窓枠の影をシートクッションに落とし、クッションをより小さく見せています。 そしてラグは光によって白飛びしていることから、椅子の方に視線を向けるようになっています。
光源がシーン内のオブジェクトとどのように相互作用するかを考えるだけで、比較的平凡なモチーフに個性を与えることができ、視覚的に物語を加えることができます。
この画像はワルシャワのクリニックをビジュアライゼーションしたもので、光を抑えることで視覚的なストーリーを作成している良い例です。イメージのディティールのほとんどが、日暮れの時間により陰になって見えなくなっていますが、陰になった部分の冷たさに対して、建物内部が暖かく照らされていることにより、メインである診療所の快適さを際立たせています。
右側の二人について考えてみると、夕暮れの冷たい風を背に施設の温かさに魅力を感じていると想像できます。 デザインレベルでは、照らされた領域はフレーム全体のアクセントになっているので目を引くことができ、画像が煩雑にならないように影によってバランスが取られています。
床のタイル、窓ガラス、手すりの微妙なディテールは、影の中からデザインを見せています。 これらは建築ビジュアライゼーションにおいて目を休ませる要素として役立ち、このクリニックを快適でホスピタリティにあふれた場所に表現することができています。
私たちの目は、一度に 1 つのものに焦点を合わせるようになっており、特に画像内では、ある要素から別の要素に焦点を移すときに、頭の中で方向感覚を確立します。つまりフレーム内に要素を配置することで動きの感覚を作り出すことができます。これにより、視聴者の目をある場所から別の場所に誘導したり、ある場所から始めて残りの部分を探索するようレイアウトで誘導することができます。
この外観の建築ビジュアライゼーションは、遠近感とコントラストを利用して、最初に建物に注意を向けるようになっていますが、控えめな方法です。 私達は通常、最初に画像の中心にあるものを確認する傾向にあり、画像をフレーミングする時に被写体を中心から少しずらして配置すると、焦点の開始点から空間が生まれ、画像が少しダイナミックになります。それは物語のように、明確な始まりと明確な終わりがあるのです。
建物は長方形ですが、遠近法で見ると、頂点が空に対して三角形に見えます。 私たちの視線は自然にこの地点から対角線上を行き来し、その後に人や車、緑に注目します。 これにより、構造の奥行きが強調され、実際の場所から見ているような立体感が生まれ、視覚的にも興味深いものになります。
これは建物の別のショットで、同じ工夫がされていますが、遠近法の歪みはあまり目立たず、視線が画像から離れないように、駐車場の線が建物の角に目を誘導するようになっています。
このバージョンも同じように作られていますが、視線を中央の左、写真の下半分に向けるようになっています。 多くの人々が建物の周りを歩いており、また建物の鋭角がそこに目を向けるようデザインされています。これにより複合された安定した景色になっており、フレーム内の人物が何者であるのかを自然と推測させます。
フレーム内のレイアウトが画像に方向性とダイナミズムを与える方法は理解できたので、構図で使用するテクニックについて説明していきます。
この 2 番目の例の構成は、三分割法と呼ばれる基本的な構成ガイドを使用して説明できます。
画像は 9 つの偶数の正方形のグリッドに分割することができ、建物の突出した角が左上の垂直線と水平線の交点に位置合わせされていることがわかります。 さらに、鋭いエッジが下向きに突き出て、一番左側に最初の垂直分割が確立されます。 作者がここで行ったように、三分割法を使用して、グリッド内の交点の 1 つに要素を配置することにより、フレーム内の要素に視線を集めることができます。
ここまで、いくつかの簡単な工夫をすることで、豊かで魅力的なイメージを構築し、そこにストーリー性を持たせる方法について一緒に見てきました。 イメージにストーリー性を持たせるということは、他の日常的なものにも活用することができます。
今後の記事では、様々な工夫やアイデアをより詳しく解説し、色、光、構図に対して具体的なテクニックを紹介し、人気の建築デザイナーからもさらに多くの洞察を得る予定です。 それではまたお会いしましょう!