まず、3D業界の最新のトレンドを語る前にご留意いただきたいのは、この業界は急速に変化しているので今回ご紹介する内容も、すぐに古い情報になる可能性があるということです。3D業界においてCGアーティストや企業は、常に革新的なビジョンを追求し、新しい技術を開発するなど努力を続けていますので、この記事ではトレンドを全てカバーできていない可能性もあります。
しかしそれでも、ここでご紹介するトレンドから3Dの将来への影響、今後どのように認識されていくのか、そして作成されていくかのを窺い知ることはできます。これらのトレンドには、フォトリアリズムの進歩、映画の視覚効果の変化、AIの関与の増加などがあり、3D業界の現状は、大きな混乱と革新の時代に向かっていると言っていいでしょう。
では見ていきましょう。
1960年代にウィリアム・フェッターがボーイング社からの依頼で、飛行機のコックピット内に座る人間を初めてモデル化しました。それ以降、グラフィックデザイナーたちは、徐々に3Dモデルにリアリズム加えるようになっていきました。
過去60年の間に、3Dのリアリズムは大きく進歩しました。フォトリアリズムという言葉は、3D画像がコンピュータによって生成されたものではなく、カメラで撮影された写真にどれだけ近いかを評価するために使われるようになりました。
しかし2023年の今、3Dアートは単に現実を模倣する以上の進歩を遂げています。本物と区別がつなかいような品質を求めることに変わりはないですが、熟練したアーティストたちは、アーティスティックで魅力的な要素を取り入れ、見る人の知覚に挑戦するようなフォトリアリズムを実現しています。これには、従来にはないユニークな特徴や質感を持つキャラクターなどがあります。
インスタグラムのインフルエンサー、Miquelaは実在する3Dアーティストではなく、ロサンゼルスに住むという設定のバーチャルヒューマンです。3Dであるにもかかわらず、彼女は買い物をしたり、食事をしたり、旅行に行ったり、有名人と遊んだり、そのすべてをオンラインの 280 万人のフォロワーと共有しています。 一見すると、彼女はただの恵まれたZ世代のように見えますが、よく見てみると、現実とバーチャルの境界線が曖昧な、不気味な雰囲気があります。彼女は 3D なのです。
MiquelaのクリエイターであるTrevor McFedriesとSara DeCouは、彼女が人間ではないことをほのめかすために、いくつかの特徴を微妙に変えています（具体的には鼻です）。それでも、全体的なイメージは、卓越した照明、構図、テクスチャ、現実の環境とのシームレスな統合によって、驚くほどリアルです。Miquelaの超現実的な外見は、彼女の投稿に寄せられたコメントからも明らかなように、一部の視聴者をも欺いているのです。
3Dデザインにおいて、人間のフォトリアリズムを実現することは、写真のような仕上がりにするための一つの側面にすぎません。もう一つの重要な側面は、ファブリック、表面、オブジェクトなどの素材の外観や質感を完璧に再現し、本物らしく見せることです。
3Dアートでは、人間のフォトリアリズムと同様に、単に素材をリアルに見せる以上の進歩を遂げています。3Dアーティストは驚くほどリアルな外観を作りながら、ユニークな方法で素材を組み合わせ、面白いパターンや動作を作り出しています。ヴィンセント・シュウェンクは、このようなテクニックを使用している注目のアーティストです。
ヴィンセント・シュウェンクは、発泡スチロールのような柔らかいマテリアルを使って、石やサンゴのような硬く見える物体を作り出します。これらマテリアルを巧みに操り、硬いエッジをぼかしながら互いに融合させて折り重ね、フォトリアルな外観を作り出すのです。その視覚的実験を通して、彼は見る者の認識に訴えかけ、現実には不可能な方法で曲がったり、ねじれたりなど、驚くほどリアルでユニークなシーンを作っています。
3D のリアリズムは大きく進歩し、その発展はとどまる気配がありません。初期のウィリアム・フェッターのボーイングマンのモデルから、本物そっくりのバーチャルインフルエンサー、ミケーラやヴィンセント・シュウェンクのダイナミックな作品まで、60年以上にわたる進化には目を見張るものがあります。そう考えると、あと30年、あるいはそれよりも短い間に私たちは何を目撃できるのか、楽しみでもあり、恐ろしいような気もします。3Dリアリズムの未来は、さらに驚くべき大きな可能性を秘めています。
3Dでフォトリアリズムが高まると、各フレームのディテールがより複雑になるため、レンダリングが重くなります。そのため1台のマシンでのローカルレンダリングは、現実的ではありません。フォトリアリスティックなプロジェクトを完成するためのコスト効率と時間効率の高いソリューションとして、信頼性の高いレンダーファームが不可欠になります。
3D技術は、建築のビジュアライゼーション、映画の世界観の構築、ゲームデザインなどで幅広く活用されてきました。しかし、科学的なビジュアライゼーションに3Dを使用する傾向が高まっています。科学的な概念を伝えるのは難しいものですが、3Dで視覚化することで、より良い理解と把握が可能になります。
科学的なビジュアライゼーションは、科学に詳しくない人々のためだけでなく、科学者自身にとっても正確で詳細なビジュアライゼーションは有益です。質の高いビジュアライゼーションは、科学分野における複雑な概念をより良く理解するために役立っているのです。
科学概念を 3D で視覚化することで、以前は想像できなかった新しい視点を得ることができます。科学者は3Dビジュアライゼーションによって、ブラックホールの合体のような巨大な現象から、加速された陽子の衝突のような極小の現象までを探求することができるのです。これは、3Dが科学の産物としてだけでなく、科学的概念を伝え、理解するツールとしても機能することを示しています。
科学モデルは複雑で、それを3Dで正確に描写するには、ディテールの多いシーンをレンダリングする必要があります。これを処理するには、強力なハードウェアが必要であり、個人のワークステーションでは決められた時間内で対応するのに苦労するかもしれません。オンラインレンダーファームは、このような厳しい条件でのレンダリングのために特別に設計されており、レンダリング時間の短縮と費用対効果の高いソリューションを提供します。
マキシマリズムとは、デザインにおけるミニマリズムの対極にあるもので、豊富な色、要素、テクスチャー、ライン、動き、反復を用いた「more is more」なアプローチを指します。この考えは、創造的なメディアと技術、特に3Dを限界まで押し上げ、芸術的表現の極限を探求することを目的としています。
これは、様々な3Dソフトウェアにおける絶え間ない技術の進歩と、魅力的な可能性を探求したいというアーティストたちの欲求によるアプローチです。 テキストベースの3D生成、プロシージャルなテクスチャリング、2D画像から3Dを再構築するなどのテクニックを使って、アーティストたちは鮮やかでサイケデリックな、視覚的に強烈な3Dの世界を作り出しているのです。
3Dにおけるマキシマリズムには、多数の3D要素、パラメータ、テクスチャ、プロパティを使用することが含まれ、2Dスクリーンで正確にレンダリングするには強力なハードウェアが必要です。そんな多様な要素を厳しい納期で作業する場合、オンラインレンダリングファームは、効率的にプロジェクトを完成させるのに役立ちます。
AIは、カスタマーサポート、広告コピーライティング、画像作成、ビジネス分析、さらには自動車など、さまざまな業界に浸透しています。3Dアーティストの仕事は、AIによって完全に奪われることはないと思いますが、3Dワークフローの側面に影響を与え始めているのも確かです。
テキストを3Dに変換するツール、プロシージャルなテクスチャリング、1枚の2D画像からの3D再構築など、先に述べた3Dのイノベーションはすべて AI 主導になっています。AIは、モデリングからレンダリングに至るまで、3Dワークフローのあらゆる側面に影響を与える可能性を秘めています。AIの影響力について詳しく説明した記事もありますので、よろしければご覧ください。
AIは、人間の創造性や独創性に決して取って代わることはできないかもしれませんが、それでも、3Dモデリングに必要な人数を減らし、オンラインレンダーファームでのレンダリング時間とコストを大幅に削減するなど、業界に多大な影響を与える可能性があります。
レンダーファームにおけるAIの役割は2つあります。それは、AIはがレンダーファームを脅かす存在にいなると同時に、改善する手助けにもなるということです。 AIはローカルレンダリングを強化しますが、小規模なプロジェクトのレンダーファームの必要性を減らす可能性があります。
AIはレンダーファームのオペレーションを最適化し、レンダリング速度の高速化とコスト削減を実現します。これにより、小規模なプロジェクトでも、レンダーファームを使用するほうが効率的になるでしょう。つまりAIがレンダーファームに与える影響は、利点と課題のバランスにあるのです。
これは音のレベルのことを言っているのでなく、 "The Volume "とは、高解像度の大型LEDスクリーンを備え、映画制作者が望むあらゆる背景を映し出すことができる革新的な映画セットのことです。
これはバーチャル プロダクションとしても知られており、Industrial Light & Magic (ILM)によって開拓されました。ILMは、スター・ウォーズ、マーベル映画、ロード・オブ・ザ・リング、アバター、インディ・ジョーンズ、E.T.、ターミネーターなど、その他多くの象徴的な映画を含む幅広い視覚効果制作で有名です。
映画制作におけるVolumeは、映画スタッフに撮影ロジスティクスにおいて素晴らしい柔軟性を提供し、大きな影響を与えます。実際のロケーションで特定の照明条件を捉えるために撮影を急ぐ必要がなくなり、環境をよりコントロールできるようになります。
The Volumeを映画制作に使用することで、映画制作のコストを大幅に削減することができます。現在、The Volumeをレンタルしたり、バーチャル制作スタジオを作ったりする費用はまだ高いかもしれませんが、俳優や機材、小道具を撮影のために様々な場所に運ぶ従来のロケ撮影に比べれば、費用対効果は高いです。
では、3D はバーチャル プロダクションとどのような関係があるのでしょうか? ご存知のように、バーチャル・プロダクションでは、巨大なLEDスクリーンに映し出される背景は3Dで作られています。これらの背景は平面的な2D映像では視差が混乱てしまうため、３Dでの制作が必要なのです。3Dでなければリアルな錯覚を維持できず、巨大なスクリーン上の風景や内容の視差と視覚的なマジックを保つことができないのです。
The Volumeは照明の面でも有利です。俳優を撮影し、後でロケ地でポストを通じて重ね合わせる従来のグリーンスクリーンを使う方法とは異なり、The Volumeの高解像度LEDスクリーンは光源として機能します。しかし、グリーンスクリーンは役者や前景のオブジェクトに緑色を帯びさせるため、後で修正しなければならず、時間とコストがかかります。The Volume を使用すると、強力なスクリーンが光源にもなり、 スクリーンに表示される場所、時間帯、環境にマッチするため、ポストプロダクションの時間を節約し、ビジュアルの精度を向上させます。
グリーンスクリーンを使用した場合、ポストプロダクションでキャラクターの表面に正確な反射を加えるのは困難なので、フレームごとに手間のかかる後処理が必要だったことでしょう。一方Volumeは、ロケ撮影をしなくてすむだけでなく、輝く鎧を着た騎士を自然に見せることに成功しています。
現在、Unreal Engine のリアルタイムレンダリング機能により、レンダーファームを使用せずにバーチャル プロダクションの背景制作をおこなえます。しかし、高いディテールとリアリズムが要求される固定カメラアングルのシーンではプリレンダリングされた背景が使用されるので、これらの高解像度アセットのためにレンダーファームを使うことがよくあります。
今回のこれらのトレンドは、3D業界における革新的な技術やテクニックをすべて紹介しているわけではありません。3Dの開発ペースは速く、世界中のアーティストが新しい手法やツールの実装方法を次々と生み出し、ユニークで画期的な作品を生み出しています。
3D業界では新しい開発や実験が常に行われているので、アーティストでも、CG会社の経営者でも、あるいは3Dコンテンツの視聴者であっても、3D技術の進化に伴い、エキサイティングで驚くほど魅惑的な旅が待っていることは間違いないでしょう。
