2023年の1月末に開催された「3DCGコンテスト MODO デジタルフードアワード」の受賞者の方々に、制作のプロセス、作品作りを追求する喜び、そしてレンダーファーム使用の感想について語っていただきました。
先日開催された3Dコンテストで、Modoが日本の3Dデザイナーの皆さんに出した課題は「Modoを使ってリアルな食べ物の3Dレンダリングを作成する」というものでした。どんなデザイナーの方々が受賞したと思いますか?結果は、建築のビジュアライザーの方が最優秀賞、アミューズメントマシンのデザイナーの方とゲームの背景モデラーの方が優秀賞を受賞しました。
オフィスビルやゲーム機、ゲームの背景など、無機質なものの3Dモデルを生業としている方々が、なぜ食べ物のような有機物をうまく表現することができたのでしょうか。また、受賞者の方々がこのコンテストで得た教訓や気付きについてもインタビューしていきます。
優勝した加藤智幸さんは、ジンジャーブレッドハウスを作ることに決めました。 「子供の頃の思い出して、お菓子の家を作ることにしました」と加藤さんはおっしゃっています。
そして加藤さんは、個人的な記憶や経験を呼び起こすことによって生み出される特別な感覚を、彼の作品の中で実現させています。画面内には人が写っていないにもかかわらず、家族が集まって互いに笑い合い、くつろいでいるように感じることができます。 加藤さんは「料理人が作った完璧な料理ではなく、親子で作った手作り感を感じられるものを目指しました。」とおっしゃっていて、「ストーリーテリング」の重要性を指摘しています。
加藤さんのクッキーの家は、特別な雰囲気に包まれていますよね。
(もし今すぐレンダリングを試してみたいMODOの作品があればMODOレンダーファームをご確認ください。)
加藤さんの作品の魅力は、個々の要素よりも画像全体の効果が大きいのですが、一番の魅力は加藤さんが意図的に取り入れた不完全性(手作り感)によるものでしょう。 「今回は手作り感を感じさせるものを目指したのでモデリングしたものも大げさに歪ませたりしてラフさを出しました。とにかく不自然に直線的なものをなくす意識をし、モデリングでクッキーを歪ませたりテーブルクロスにシワを作ったりコップは潰したり少し傾けたりしてCGさを消すようにしました。」 と加藤さんは教えてくれました。
そしてさらに、加藤さんは作品からCG っぽさを払拭するために、デジタルでの作業に対してアナログな手作業で挑むことにしました。 「屋根につけたクッキーも、リプリケーターなどは使わず実際に作るように一枚一枚選択して屋根にはりつけるように配置しました(敢えて面倒なことをして配置にばらつきが出るように)。」このアプローチは、3D アーティストというよりお菓子職人のようで、実際に加藤さんも 「実際にお菓子の家を作っている感じがして楽しかったです。」とおっしゃっています。
お菓子の家の3Dレンダリングを作る上で、加藤さんは自分の知っているもの、身近なものにこだわりながら全体的なイメージの統一を図り、さらに新しいことに挑戦することで目標を達成することができました。その新しい挑戦とは、3Dで正確に表現するのが特に難しい 粉砂糖という素材です。 「今回の難関は粉砂糖でした。以前のmodoの勉強会でやったプロシージャルテクスチャを使ったマテリアルの作り方を応用し10種類近く使って作りました。」と、加藤さんは語ってくれました。
問題は加藤さんが制作時にModo のプロシージャル テクスチャにあまり慣れていなかったことでした。 「滅多に使わないこともあり5日程度かかったと思います。どう作ろうか試行錯誤し時間も取られましたし、プロシージャルテクスチャでやると決めてからも試行錯誤が続きました。」そうおっしゃる加藤さんのこの努力が素晴らしい結果に繋がったのでした。
優秀賞を受賞した柳谷 祐介さんも、同様の経験をしています。 柳谷さんはあんみつのデザインでコンテストに挑戦しました。
この豪華なデザートの材料の中で、きなこと抹茶の部分が柳谷さんにとって挑戦でした。「きな粉、抹茶の粉の表現は、通常の質感変更では上手くいかないと思ったのでファーを活用しました。ただ、ファーの使い方自体を忘れていたのでチュートリアルから勉強しなおしました。」と柳谷さんは教えてくれました。 新しい技術を学ぶことが、今回優秀賞を受賞したことに繋がったのかもしれません。
そして今回の受賞者の中で、常識にとらわれないことを真に体現したのは、同じく優秀賞を受賞した古谷理さんです。 今回初めてModoを使ったという古谷 理さんは次のようにおっしゃっています。 「modoというソフトの使いやすさのおかげでほとんど問題はありませんでした。大きなトライ&エラーを行わなくても簡単な設定である程度の水準のクオリティまで作品を仕上げることができたと思っています。」
もちろん、古谷さんは初めて3Dモデリングに挑戦したわけではありません。古谷さんは経験豊富な3Dアーティストですが、Modoは普段から仕事で使っているソフトではなかったのです。それにしても、使い慣れていないソフトウェアでコンテストに参加するというのは、勇気があることですよね。操作方法がどこにあるのか、どの用語がどのパラメータに対応しているのか、メニューなどもよくわからないことでしょう。数日間ソフトウェアを触っただけでコンテストで入賞したことが、古谷さんの技術や知識の高さを示しています。
MODOだけでなく、古谷さんはレンダー ファームを使用するのも初めてでした。 「レンダーファームも初めての使用でしたが、使い方を理解するのに何の問題もありませんでした。」とおっしゃっていただいています。 強運と技術力を両方武器にして古谷さんは受賞を果たしました。 たこ焼き、美味しそうですね。
今回受賞された3名とも本業とは別に、個人的なプロジェクトとしてコンテストの制作に取り組まれました。つまり一日の時間の大半を本業で費やした後に、また数時間を使ってコンテストに挑まれたわけです。まさに時間との勝負だったことでしょう。3名とも時間的な制約のプレッシャーを感じ、また、審査員や他のアーティスト、そして一般の方々からのフィードバックを受けて、もっと時間があれば改善できることがあったのではないかと感じていたようです。
最優秀賞受賞者の加藤智幸さんは「普段人に評価して頂きその内容まで聞くこ機会はほとんどないのですべてがありがたったのです。突き詰めた表現をすることを避けてしまっているので、自分でもっとこうするべきだったと思った点に指摘を頂き、やるべき点が見えていたのに実行しなかったことを反省しました。」とおっしゃっています。
「やりたかったのにできなかったところがそのまま指摘されていました。特にサブサーフェイススキャッタリングの設定に関しては私自身理解していない部分でしたので勉強が必要だと感じました。」これは優秀賞を受賞した柳谷 祐介さんの感想です。
「あまり制作時間が無かったので、まずは作業的にあまり時間がかからないもの、そして自分が好きな物という事でたこ焼きでいこうと考えました。」とおっしゃっていた古谷 理さんも、「ただ時間が足らずアイデアを完全に形に出来なかったのが心残りではあります。」とコメントしています。
もっと時間があればもっとできたのではないか、もっと作品を改善できたのではないかという思いが、Modo モデリング コンテストを経験した3名全員が抱いているようです。今回3名が賞品として獲得したレンダーファームのクレジットを各々の将来のプロジェクトで使っていただき、時間節約という形で制作のサポートになることを願っています。そしてそのレンダリングクレジットをどのように使う予定なのかについても教えていただきました。
加藤智幸さんは、自分のスキルを伸ばすことに専念されるようです。 「個人的な創作活動はあまりできておらず作りかけのものがたくさんあるのですが、今年はその続きを作ると決めているので静止画だけでなく動画制作もして使用したいと思っています。」
柳谷 祐介さんは、レンダリングクレジットを切り札として考えているようです。「現時点では具体的なプロジェクトはないですが、締め切りギリギリのときの「最後の手段」として利用したいです。」とおっしゃっています。
「今まではあまり個人製作は行っていなかったのですが、去年あたりからぼちぼちと個人製作を行っています。」と語る古谷さんは
「今回クレジットを頂けたので具体的なプロジェクトはまだありませんが、何かしら考えていこうと思っています。」とコメントしてくださいました。
3名のコンテストの応募作品から、彼らの技術レベルや芸術性の深さを垣間見ることができました。今後も彼らはさらに成長し、発展していくことでしょう。
今回インタビューに応じていただいた加藤さんの作品は会社のウェブサイトから、柳谷さんの作品はTwitterとYoutubeからご確認いただけます。