3Dキャラクターアニメーションの世界では、フェイシャルリギングは技術とアートの両方が求められる作業です。コミカルなキャラクターから、実写のようにリアルなデジタルキャラクターまで、どんなタイプのキャラクターでも、顔の表情がどれだけ細かく表現できるかによって、アニメーションの感情表現やリアリティが大きく変わります。
フェイシャルリギングとは、キャラクターの顔の表情を自由に動かせるようにするためのコントロールシステムを作る作業のことです。体のリギングが主にジョイント(骨組み)を使って動きをつけるのに対し、顔のリギングではジョイントに加えて、ブレンドシェイプやディフォーマーなども組み合わせて、細かい表情の変化を作り出します。最終的な目的は、アニメーターがキャラクターの顔で感情やセリフをリアルに表現できるようにしつつ、作業の柔軟性や正確さ、効率も保つことです。
アニメ映画やゲームのカットシーンで、キャラクターがセリフを話しているのに顔が無表情だったらどうでしょう。声には感情がこもっていても、顔の表情が合っていなければ、その世界観に入り込めなくなってしまいます。フェイシャルリギングは、このギャップを埋めるための技術です。無機質な3Dモデルを、ストーリーを伝える大切な存在に変えてくれます。たとえば、眉を上げたり、唇をすぼめたり、まぶたを少し動かすだけでも、喜びから恐怖までさまざまな感情を表現できます。これは見た目の美しさだけでなく、感情を伝えるためにとても重要なことで、ストーリーや映像の印象を大きく左右します。フェイシャルリギングがないと、キャラクターが不自然に見えたり、不気味に見えてしまいます。
ツールやテクニックを学ぶ前に、まず顔の動きの仕組みを理解することがとても大切です。人間の顔には40以上もの筋肉があり、それぞれが複雑に連動して動きます。この筋肉同士の細かな動きを再現することが、リガーにとって大きな課題となります。
FACS(顔面表情筋分類システム)は、心理学者によって考案され、現在ではコンピューターの顔アニメーションでも広く使われている方法です。エクマン博士とフリーゼン博士によって開発され、顔の筋肉の動きをもとに標準化された表情のセットを定めています。各「アクションユニット(AU)」は、たとえば眉の内側を上げる、まぶたを強く閉じるなど、特定の筋肉の動きを表しています。
これらのアクションユニット(AU)に合わせてリグを作ることで、アニメーターはリアルで自由に組み合わせられる表情を作ることができます。FACSベースのリグは、俳優の顔の動きをそのままリグのコントロールに反映できるため、モーションキャプチャのワークフローでもとても役立ちます。
ジョイントベースのリグは、顔のいろいろな場所、特に目やあご、口のまわりにたくさんの「ボーン(ジョイント)」を配置します。これらのボーンが、ウェイトペイントという方法で顔の皮膚を動かし、アニメーターが筋肉のような自然な動きをコントロールできるようにします。
ブレンドシェイプ(モーフターゲットとも呼ばれます)は、キャラクターの顔をいろいろな表情や口の形ごとにあらかじめ作っておく方法です。リガーは、これらの形をなめらかに切り替えることで、さまざまな表情を作り出します。
あごは、顔の動きの中心になる部分です。MayaやBlenderなど、どのソフトを使う場合でも、あごを上下に動かしたり、左右にずらしたり、前に突き出したりできるように、回転や移動のコントロールをしっかり設定することが大切です。
まぶたは、目玉の動きに合わせて一緒に動くだけでなく、まぶた自体も伸びたり縮んだりする独自の動きが必要です。アイリグ(目のリグ)には、まばたきや目を細める動き、視線の方向をコントロールする機能が含まれていることが多いです。
眉やおでこの動きを細かくコントロールすることは、感情表現にとても重要です。眉の内側と外側をそれぞれ別々に動かせるようにすると、不安や怒り、興味など、さまざまな気持ちを表現できるようになります。
ここでブレンドシェイプが大活躍します。たとえば「oo」「ee」「m」など、発音ごとの口の形(音素シェイプ)はリップシンクに欠かせません。これらに表情用のシェイプも組み合わせることで、重ね合わせたリアルな口の動きを作ることができます。
見落とされがちですが、ほおや鼻のまわりの動きもリグにリアルさを加える大切なポイントです。たとえば、笑顔のときはほおが持ち上がり、鼻の横にしわができます。こうした細かい動きがあることで、単なるアニメっぽさではなく、本当に生きているようなキャラクターに仕上がります。
デフォルメは、リグとメッシュ(キャラクターの形)が実際につながる部分で、とても重要な工程です。ここがうまくいかないと、メッシュがめり込んだり、テクスチャが引き伸ばされたり、不自然な動きになってしまいます。Blender、Maya、3ds Max、Cinema 4Dなど、どのソフトを使う場合でも、デフォルメを良くするための確実な方法がいくつかあります:
さらに、エッジループをきれいに配置してトポロジー(メッシュの流れ)を整えたり、テクセル密度を均一にすることで、表情や動きのときにメッシュが予想通りに変形し、テクスチャもきれいに見えます。良いデフォーメーションを作るには、賢いリギングと丁寧なモデリングの両方が大切です。
フェイシャルリグがきちんと動くかどうかを確かめるには、動作範囲テストを行うのが効果的です。ここでは、次のような動きを試してみます:
この動作テストは、すべてのパーツがきちんと連動して動くかどうかを確認するために、リギングの品質チェック(QA)の一部として必ず行いましょう。
FacewareやAppleのARKitのようなフェイシャルモーションキャプチャ(モーキャプ)システムは、ブレンドシェイプの値やジョイントの動きを出力します。mocapに対応したリグを作るときは、ブレンドシェイプのターゲットに分かりやすい名前を付けたり、ニュートラルな顔(基準となる無表情)でキャリブレーション(調整)できるようにしておくことが大切です。FACSベースのリグは、多くのデータキャプチャシステムと仕組みが合っているので、モーキャプとの相性がとても良いです。
リグがどれだけ良くできていても、使いやすくなければ意味がありません。分かりやすく直感的にコントロールできれば、アニメーション作業が速く正確にでき、チーム作業でも効率が上がります。おすすめの方法は次の通りです:
また、「上顔」「下顔」「目」など、関係するコントロールをグループ分けしておくと、作業画面が見やすくなり、効率よく操作できます。
アニメーションが完成したら、最終的なレンダリングではライティングやシェーディング、変形の正確さに気を配ることが大切です。サブサーフェススキャタリング(皮膚の質感表現)、細かいテクスチャマップ、顔の各パーツでテクセル密度をそろえることなどが、リアルな仕上がりには欠かせません。ライティングを上手に使えば、フェイシャルリグで作った細かな変形もより引き立ちます。参考として、プロや学生が作ったフェイシャルリグのデモ動画を見てみるのもおすすめです。ポートフォリオ用のデモには、完成したアニメーションだけでなく、実際に使ったリグの仕組みや、メッシュのワイヤーフレームを見せているものもあります。
フェイシャルリギングは、テクノロジー、顔の構造、ストーリーテリングが交わる分野です。顔の仕組みをしっかり理解し、3Dソフトの操作に慣れ、感情の細かな違いも見抜ける力が求められます。個人で短編アニメを作る場合も、大手ゲームスタジオでデジタル俳優を作る場合も、よく考えられたフェイシャルリグに手間をかけることで、どのフレームも生き生きとした表現になります。スケルタルアニメーション、ブレンドシェイプ、使いやすいコントロールシステムを組み合わせれば、アニメーターはキャラクターに本物らしい感情や動きを与えられます。人間の顔は、体の中で最も表現力のある「キャンバス」です。CGアニメの世界では、そのキャンバスをどう生かすかが、リガーやアニメーターの腕の見せどころです。