スクアッシュ&ストレッチでアニメーションに生命を吹き込む

スクアッシュ&ストレッチでアニメーションに生命を吹き込む

「スクアッシュ&ストレッチ(押しつぶしと伸ばし)」は、動きのあるアニメーションの基本となる技術で、ディズニーの黄金時代からアニメーターがキャラクターや物体に命を吹き込むために使われてきました。例えば、跳ねるボールの大げさな変形や、キャラクターの表情豊かな動きなど、リアルな動きや深みを出すためには欠かせない原理です。この記事では、スクアッシュ&ストレッチとは何か、それがアニメーションの12の基本原則にどう当てはまるのか、そしてこれを使ってどうアニメーションを魅力的にするのかを解説します。

スクアッシュ&ストレッチとは?

スクアッシュ&ストレッチの基本は、動く物体の形を誇張して表現する技法です。この技法の目的は、物体の体積を変えることなく形状を変形させることで、物体の重さや柔軟性を感じさせることです。代表的な例は、跳ねるボールのアニメーションです。ボールが地面に当たると、「押しつぶされて」横に広がり、縦方向に縮みます。そして、ボールが跳ね上がるときには縦に「伸びて」、ボールに勢いや弾力があるように見せます。

このテクニックは、無機物に使われるだけでなく、キャラクター・アニメーションでも非常に重要です。実際、静止画をすぐに生き生きとした動きのあるものに見せることができるため、新人アニメーターが最初に学ぶことのひとつでもあります。

次のコマ撮りアニメーションのビデオでは、最初の5秒間でスクアッシュ&ストレッチがどこで起きているのかを当ててみてください:

アニメーションの原理: スクアッシュ&ストレッチを学ぶ

スクアッシュ&ストレッチは、フランク・トーマスとオリー・ジョンストンが著書『Disney Animation: The Illusion of Life』で紹介した、アニメーションの12の基本原則の最初の項目です。これらの原則は伝統的なアニメーションの基礎であり、1930年代と同様に今も重要であり続けています。

スクアッシュ&ストレッチの魅力は、弾力性や体積といった現実世界の物理学に従いつつ、アニメーションを生き生きと感じさせることです。オブジェクトが大げさに形を変えても、元の質量を維持する必要があり、そうしないと信憑性が失われます。

例えば、ボウリングのボールは密度が高く硬いため、ゴムボールほどつぶれません。しかし、アニメーションの中で重い物体に少しのスクアッシュ&ストレッチを加えるだけでも、その動きや重さをよりよく表現することができます。

アニメーションにおけるスクアッシュ&ストレッチの応用

スクアッシュ&ストレッチは、あらゆるアニメーションに応用できる万能な手法です。従来の手描きアニメから今日の最先端3Dアニメまで、魅力的で説得力のあるキャラクターやオブジェクトを作るために、重要な役割を果たしています。

伝統的なアニメーションにおける例

スクアッシュ&ストレッチは昔ながらのアニメーションで有名になりました。『蒸気船ウィリー』のような昔のディズニー・アニメや、ワーナー・ブラザーズのバグス・バニーやダフィー・ダックのようなカートゥーンアニメを思い出してください。これらのキャラクターは、実際の体の動きをリアルに表現しているわけではありませんが、ジャンプするときに伸び、着地するときにつぶれています。

有名な例として、小麦粉の袋を使ったアニメーションの練習がありますが、これは、シンプルで形状がないものだけで、さまざまな動きや感情を表現するためによく使われます。スクアッシュ&ストレッチは、袋が動いたり、崩れたり、外からの力に反応したりと、袋が生きているように感じさせます。

ニシャント・トリヴェディによる小麦粉の袋を使った練習の例をYoutubeでご覧ください:

現代アニメーションにおける例

今日の2Dアニメーションでは、スクアッシュ&ストレッチは、感情をより繊細に表現するために使われることが多いです。ピクサーやドリームワークスといったスタジオの最近の映画では、キャラクターの動きをより自然で詳細に見せるためにこの技法が使われています。極端な誇張は少なくなりましたが、それでもキャラクターを滑らかに動かし、生き生きと感じさせるための重要な要素であることに変わりはありません。

映画『クラウス』(Netflix、2019年)では、スクアッシュ&ストレッチが非常に絶妙な方法で使われています。誇張されたフォルムに細かな陰影やライティングが調和し、手描きなのにまるで3Dで作られたかのようにリアルに見えます。

3Dアニメーションでの例

3Dアニメーションでは、スクアッシュ&ストレッチはスタイルだけでなく、技術的なスキルも関わってきます。例えば、ピクサーの短編映画に登場する弾むボールが有名です。3 Dの主な課題は、キャラクターのような柔軟な形状であろうと、ロボットのような固い形状であろうと、物やキャラクターが伸びたり縮んだりしながらもその体積を保つようにすることです。

3Dにおけるスクアッシュ&ストレッチのさらに高度な使い方は、布のシミュレーションやキャラクターのリグを使った アニメーションです。この場合、デフォーマを使って、オブジェクトの元の形を保ったまま動きを誇張します。Maya、Blender、Cinema 4Dなどのプログラムは、リアルタイムでこれらの変形を調整できるリギングシステムを備えています。

次の動画で、コマ撮りアニメーションを使った公開映画『スプライト・フレイト』のワンシーンから、分析内容をご覧ください:

なぜスクアッシュ&ストレッチが必要なのか?

スクアッシュ&ストレッチは、非現実的なものをリアルに感じさせる効果があります。このテクニックがなければ、アニメーションは硬く、生気がなくなってしまいます。例えば、ボウリングのボールが地面に落ちたとき、形を変えずにただ落ちたら、滑っているような奇妙な印象を与えるでしょう。ボールが地面に当たったときのスクアッシュ&ストレッチは、ボールの重さとスピードを表現してくれるのです。

キャラクター構成とスクアッシュ&ストレッチ

スクアッシュ&ストレッチは、リアルなキャラクターにもスタイル化されたキャラクターにも素晴らしい効果を発揮します。その理由を以下に説明します。

ボリュームを維持する

スクアッシュ&ストレッチでよくある失敗は、キャラクターの体積を維持しないことです。例えば、ボールがつぶれるとき、その全体の大きさは変わらないはずです。オブジェクトが動いている間に重さが減ったり増えたりしているように見えると、見る人を混乱させてしまいます。

重要なのは、体型の変化のバランスをとることです。例えば、ジャンプの際にキャラクターの体が伸びる場合、単に背を高くするだけでなく、全体の大きさを同じにするために体の一部を細くする必要があります。

感情とアクションを高める

顔の表情もスクアッシュ&ストレッチを多用して表現します。キャラクターがショックを受けているときや笑っているときなど、激しい感情のときに顔をつぶすことで、感情を誇張し、表情をより面白く生き生きとさせることができるのです。

リアルなモーションを作る

モーションはアニメーションの重要な要素であり、スクアッシュ&ストレッチは、物体がどのように加速、減速、そして物理的に反応するかを表現するのに効果的です。キャラクターが大きくジャンプした後に顔がバウンドしたり、速く走っているときに手足が伸びたりするのも、このテクニックで、キャラクターがどのように動き、環境と影響し合うかを表現できます。

Common Mistakes and How to Avoid Them

よくある失敗とその対処法

初心者がしがちな失敗のひとつに、スクアッシュ&ストレッチのやりすぎがあります。大げさに表現することでキャラクターを生き生きとさせることはできますが、ダイナミックにすることとリアリティを失うことは紙一重です。スクアッシュ&ストレッチを使いすぎると、キャラクターやオブジェクトが伸縮しすぎて不自然に感じてしまいます。例えば、リアルなアニメーションやゲームで、ボウリングのボールのような固い物体を伸ばしすぎると、現実感が損なわれてしまいます。これを避けるには、スタイルや 設定を考慮する必要があります。カートゥーンではもっと大げさな表現が許されるかもしれませんが、セミリアリスティックアニメーションでは慎重に使うことが大切です。

これを避けるには:

  • 現実の環境で物体がどのように動くかを観察する: スクアッシュ&ストレッチを使う前に、そのオブジェクトやキャラクターが実際の生活でどのように動作するかを考えてみましょう。例えば、弾むゴムボールはスクアッシュ&ストレッチで大きく伸びますが、ボウリングのボールはほとんど形を変えません。
  • アニメーションのスタイルを研究する: ジャンルやスタイルによって、誇張の度合いは異なります。『ルーニー・テューンズ』のようなクラシックな作品では、スクアッシュ&ストレッチが極端に使用されていますが、ピクサー作品では、メインで使われるのではなく、引き立てるために控えめに使用されています。
  • アニメーションのレイヤーを重ねる: まずは、スクアッシュ&ストレッチなしで基本的な動きをアニメーション化することから始めましょう。メインの動作に満足したら、特定の部分にスクアッシュ&ストレッチを加えます。

体積の保持: 一貫性の秘訣

もう1つのよくある失敗は、スクアッシュ&ストレッチを使うときに体積を一定に保てないことです。つまり、オブジェクトやキャラクタは質量を変化させるのではなく、全体の体積を同じに保ったまま変形させるという原則です。例えば、ボールがつぶれるとき、ボールの幅は広くなり、高さはバランスよく低くなります。体積が同じに保たれていないと、物体は不自然に大きさが変化しているように見え、その重さや 物理的な性質が見る人を混乱させる可能性があります。

これを避けるには:

  • 参考資料を使う: アニメーションソフトで視覚的なガイドや グリッドを作成し、変形中に体積が一定に保たれているかどうかをチェックしましょう。多くの3Dアニメーションプログラムには、オブジェクトの体積の経時変化を追跡できるツールがあります。
  • 手動での体積チェック: 従来の2Dアニメーションでは、アニメーションのフレームをなぞって、スクアッシュ&ストレッチをしても全体の表面積が変わらないことを確認します。幅と高さのバランスを保ちましょう。
  • 幾何学的な形を使って練習する: まずは球や立方体のような単純な形を使ってスクアッシュ&ストレッチを学びましょう。コツをつかんだら、そのスキルをキャラクターのような複雑なモデルに応用してみましょう。

オブジェクトの素材と特性: スクアッシュ&ストレッチの特異性

アニメーターがよくやってしまう間違いのひとつは、オブジェクトの素材に関係なく、すべてのオブジェクトに同じ量のスクアッシュ&ストレッチを使用してしまうことです。スクアッシュ&ストレッチのレベルは、素材によって変えるべきです。例えば、水風船は大きくスクアッシュ&ストレッチできますが、岩石は少ししか変化しません。固い金属のオブジェクトを伸ばしすぎると、オブジェクトが不自然な見た目になることがあります。

これを避けるには:

  • 素材を理解する: 素材によって力がどのように変化するかを理解しましょう。ゴムや布のような柔らかくて柔軟な素材はスクアッシュ&ストレッチが大きく、ガラスや石のような硬い素材はあまり形が変わりません。
  • 補助的な動作を加える: 硬い物体に無理にスクアッシュ&ストレッチを加えるのではなく、振動や小さな形状の変化といった二次的なアクションを加えてみましょう。例えば、ボウリングのボールのような重い物体は伸びないかもしれませんが、地面にぶつかったときに少し縮むことで、よりリアルに感じられるようになります。
  • 現実の環境を参考にする: 実際の物体が周囲の環境とどのように影響し合っているかを映像で見てみましょう。例えば、弾んだバスケットボールと、プラスチックの水筒や金属の缶とでは、潰れ方が違うことに気づくはずです。それぞれの素材の特性を理解することで、スクアッシュ&ストレッチをより自然でリアルに見せることができます。

スクアッシュ&ストレッチに動きを合わせる

動きの速さや激しさに応じて、スクアッシュ&ストレッチの量を調整することが重要です。動きの遅いオブジェクトはあまりスクアッシュ&ストレッチするべきではありませんが、動きの速いオブジェクトはより極端な変形を見せることがあります(特に、素早く方向を変えたり、強い力がかかったりする場合)。アニメーターはしばしば、適切でない状況でスクアッシュ&ストレッチを使いすぎて、動きが不自然に見えるという失敗をすることがあります。

これを避けるには:

  • スピードに応じて変形を調整: オブジェクトやキャラクタのスピードに応じて、スクアッシュ&ストレッチの量を調整しましょう。例えば、キャラクターが高速ジャンプをした場合、ジャンプの頂点で体がもっと伸びます。一方、ゆっくり歩いているときは、足が少し縮むくらいです。
  • メインの動きを最初にアニメートする:スクアッシュ&ストレッチを加える前に、基本的な動きをアニメートすることから始めます。こうすることで、メインの動きが自然に見えます。スクアッシュ&ストレッチは、あくまでもすでにある動きを強調するために使いましょう。
  • スムーズな切り替え: スクアッシュ&ストレッチを使うときは、変化が徐々に起こるようにしましょう。急に変化させると、動きが不自然になったり、機械的に見えたりします。イージングテクニックを使って、スクアッシュ&ストレッチがオブジェクトの元の形状にスムーズに入り込み、元の形状から離れるようにすると、よりリアルに感じられます。

スクアッシュ&ストレッチを感情表現に効果的に使う

スクアッシュ&ストレッチは、特にキャラクターアニメーションの場合、感情を表現することもできます。キャラクターをスクアッシュ&ストレッチすることで、物理的な動きだけでなく、そのキャラクターの気持ちも表現することができるので、例えば、悲しんでいるときやイライラしているときはよりつぶしたり、興奮しているときやショックを受けているときはより伸ばしたりすることで、より個性的で深みのある表現が可能になります。

やり過ぎないようにするには:

  • 雰囲気と情景: シーンの雰囲気を常に考えましょう。シリアスな場面や悲しい場面で大げさにスクアッシュ&ストレッチをすると、場違いな感じがしてしまいます。しかし、楽しいシーンやコメディー的なシーンでは、このテクニックを使うととても効果的です。
  • 控えめ vs 極端:シーンの感情の激しさに応じて、スクアッシュ&ストレッチの量を調整しましょう。軽い驚きを表現する場合はわずかにストレッチを効かせ、ショックや喜びをより大げさなアニメーションスタイルで表現する場合は強くストレッチを効かせます。

スクアッシュ&ストレッチはアニメーションにおいて非常に重要な手法ですが、慎重に用いる必要があります。同じ体積を保つ、異なる素材の特性を知る、モーションの仕組みを理解する、といった重要な概念を理解することで、失敗を防ぐことができます。スクアッシュ&ストレッチを効果的に使うことで、キャラクターや世界を生き生きと信じられるものにすることができるのです。重要なのは、誇張表現とリアリズムの適切なバランスをとり、アニメーションの雰囲気やスタイルに沿ったものでありながら、一貫性と信憑性を保てるようにすることです。

次のアラン・ベッカーの短い動画で、スクアッシュ&ストレッチに関してうまく説明されています。

スクアッシュ&ストレッチを学ぶ: コツと教材

スクアッシュ&ストレッチをマスターするには、練習と観察が必要です。例えば、軽いゴムボール、重いボウリングのボール、小麦粉の袋のような柔らかい物体など、さまざまな重さを使ってボールの跳ね返りをアニメーション化するような、簡単な練習から始めましょう。Adobe Animateや Blenderは、2Dや3Dのアニメーションでスクアッシュ&ストレッチのテクニックを試すための優れた機能を備えています。

リチャード・ウィリアムズ著『アニメーターズ・サバイバル・キット』やトーマスとジョンストン著『ディズニー・アニメーション -生命の幻想-』のような本は、技術を向上させたいアニメーターは必読です。

まとめ: スクアッシュ&ストレッチがアニメーションに与える影響

スクアッシュ&ストレッチは、アニメーションを生き生きと活気づけるものです。どんな形であれ、キャラクターやオブジェクトに重さ、柔軟性、リアリズムを加えてくれます。アニメーターとして、2Dであれ3Dであれ、あるいはさまざまなスタイルをミックスしたものであれ、この方法をうまく使うことで、作品がより洗練され、見る人を作品の世界に引き込むことができるのです。

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