最近の映画製作では、俳優をCGIキャラクターに置き換える場合があります。
それはなぜでしょうか。
映画プロデューサーや監督は、様々な理由から3Dグラフィックスのキャラクターを映画に採用しています。それは予算や時間の問題の他に、出演して欲しい俳優のスケジュールが合わなかったり、契約に問題があるなどが起因しています。また、危険なシーンでは3Dを使うことでリスクを回避できたり、あるいは、実際の人間や通常の撮影方法では不可能なシーンを作りたいなど、様々な理由があります。
そして、デジタルツインによって得られる結果や影響も様々です。 うまく作成できれば、デジタルツインは本物の俳優と同じように見え、彼らが登場するシーンは本物の俳優を使うシーンとスムーズに調和します。しかしうまく作れないと不自然で滑稽に見えたり、ちょっと不気味に見えたりしてしまいます(余談ですが、人間の表情をうまく表現できておらず、違和感のある表情が不気味な印象を与えることを「不気味の谷」と呼びます。ディープフェイクビデオのようなものです)。
出来が良くないデジタルツインは、大抵の場合、時間や資金が不足しているのが原因です。このような場合、レンダーファームを使用すれば問題を解決することができます。レンダーファームは、さまざまなプロジェクトのフレームを作成するために数百台の強力なマシンを備えているため、1台のコンピューターが単独で行うよりもはるかに高速にレンダリングができるからです。これは、レンダーファームの計算能力が非常に高いからでもあり、また、ガレージファームでは、プロジェクトに使用するCPUやGPUの種類を選ぶこともできます。(こちらからご確認ください。)
確かにレンダーファームは有料ですが、自分のコンピューターでレンダリングするのが「無料」だと思っているなら、これもよく考えてみてください。自分のコンピューターでレンダリングすると、CPUの時間をすべて使ってしまうので、他のことが何もできなくなるのです。つまり、コンピュータがレンダリングしている時間は、あなたが他のプロジェクトに取り組めない時間になるということです。プロジェクトがレンダリングされるのを何時間も待った後で、エラーが出た時を想像してみてください。私たちのクラウドレンダーファームを利用するということは、素早いレンダリングだけでなく、プロジェクトに何か問題があっても24時間365日体制でサポートしてくれるサポートチームも利用できるます。
(ガレージファームを使った場合の時間と金額の概要は、コスト計算ツールをお試しください)。
さて、デジタルツインとは何かがわかったところで、いくつかの例を見てみましょう。
ピーター・ジャクソン監督の映画『ロード・オブ・ザ・リング』に登場するゴラムは、これまでに作られたCGキャラクターの中でも最も印象的なキャラクターの一人です。本物の俳優の代わりをしているわけではないので、ゴラムはデジタルダブルではないと言う人もいるかもしれません。しかし、 アンディ・サーキスのような演技ができ、背が低く、目がとても大きく、足がとても大きい人を見つけるのは非常に難しいでしょう。むしろゴラムは、現実の俳優たちをも上回る演技をすることができ、ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』の映画をさらに魅力的なものにしました。そして、このゴラムを制作するために、視覚効果制作会社のWeta Digital は、多くのコンピューターを使用しました。
そして次に、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に登場するデイヴィ・ジョーンズです。多くの人が、デイヴィ・ジョーンズは史上最高のデジタル・キャラクターだと思っているかも知れません。こちらも正確にはデジタルツインではなく、デジタルのクリーチャーなのですが、映画製作者たちは彼の恐ろしいイカのような外見を作り出すのに非常に苦労しました。デイヴィ・ジョーンズを特別な存在にしたのは、目をコンピューターグラフィックスで作成するのではなく、俳優ビル・ナイギーの本物の目をキャラクターの目に組み込んだことでしょう。これにより、キャラクターがよりリアルで説得力のあるものになったのです。
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のキャラクター、デイヴィ・ジョーンズのクリエイターは、ユニークな戦略を用いました。当時、3Dモデルは人間や動物の皮膚を不自然に見せてしまう光沢のあるテクスチャが多かったのですが、デイヴィ・ジョーンズは常に濡れているイカ人間であるため、この光沢のある外観は、実際に彼をよりリアルに見せました。デイヴィ・ジョーンズを作ったのは、有名なインダストリアル・ライト・アンド・マジック社(ILM)です。ILMには、3Dモデルを作成するための独自の専用レンダー ファームがあり、これらのコンピューターは非常に強力で、1日に1ペタバイトという膨大な量のデータを作成できます。また、これらのコンピューターは非常に多くの熱を発生するため、ILMはそれらを冷却するためにジェットエンジンに使用されるものと同様の空調システムを設置しなければなりませんでした。
アバターのナヴィ族も、CGキャラクターの最高の例のひとつでしょう。監督のジェームズ・キャメロンは、異界の生物を創造することに関して屈指の人物です。ナヴィのキャラクターは人間に似ていますが、身長は9~10フィートあり、青い肌をしています。ナヴィに本物のような動きや感情を表現させるため、キャメロン監督のチームは、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムと同じように、モーションキャプチャーを多用しました。Weta Digital 社は、ナヴィと『アバター』の世界全体をスクリーン上で生命を吹き込むために、ニュージーランドの 10,000 平方フィートの敷地に建設した独自のレンダーファームでレンダリングを行いました。
マーベル映画には、ハルク、アントマン、アイアンマン、サノス、スパイダーマン、キャプテン・マーベルなど、スーパーヒーローや悪役の迫真のデジタルダブルがたくさんいます。例えば、『シビル・ウォー』ではスパイダーマンが登場するすべてのシーンでデジタルツインが使用されています。これは、俳優のトム・ホランドが撮影の1カ月後に参加したため、彼のデジタルツインを使って効率を高めたのです。また、スパイダーマンの複雑なスーツを実際に作るよりも、デジタルで作る方が実用的でした。さらに言えば、トム・ホランドがコスチュームのマスクをかぶって何時間も演技するのは、非常に暑くて大変だったでしょう。
マーベル映画では、俳優の部分的なデジタルツインを作ることもあります。例えば、ヘルメットを脱いだトニー・スタークの首から下の3Dモデルを作ったり、スティーブ・ロジャースが裸足で走るシーンのために、足のデジタルダブルも作成されました。別の例では、アベンジャーズがタイムマシンに飛び乗るときに着るスーツもCGで作られました。これは、製作チームがスーツのデザインを本番の撮影に間に合わせることができなかったため、ポストプロダクションでCGIを使って最終的なデザインを追加したためでした。これらの映画はすべてディズニーのもとで製作されたため、特殊効果会社のインダストリアル・ライト・アンド・マジック(ILM)がこれらのデジタルツインを手掛けた可能性が高いです。つまり、これらのデジタルツインを制作したアーティストは、ILMが所有するレンダーファームの大量のコンピューターパワーを使用することができたということです。
『マトリックス』シリーズの2作目となる映画『マトリックス・リローデッド』には、不評を買ったシーンがありました。主人公ネオが大量のエージェント・スミスと戦うシーンで、使用されたCGI(コンピューター・ジェネレーテッド・イマージュ)のクオリティは、映画の他の部分と比べてもあまり良くなかったのです。ネオの姿は不自然で柔らかく見え、肌は本物の人間の肌には見えず、黒いコートはまるでゴムのようで体に張り付いているように見えました。まるでプレステ2のゲームのワンシーンのようなクオリティで、マトリックス第1作の革新的でハイクオリティな視覚効果を考えると、期待はずれと言わざるを得ません。
映画『トワイライト: ブレイキング・ドーン』では、最後にレネスミーという赤ちゃんが出てくるのですが、不気味の谷(Uncanny Valley)という視覚現象を生じさせるような違和感のある仕上がりでした。赤ちゃんの顔は実写シーンにデジタルで追加されたようで、照明の関係で顔が離れて見えるため、不自然な印象を与えました。そもそも、レネスミーのキャラクター設定自体が奇妙だったことも原因です。半吸血鬼であるこのキャラクターは、赤ん坊が吸血鬼の能力によって急速に成長するという設定で、大人びた演技をするようにデザインされていました。なので、生まれてわずか1週間でしゃべり始めるというものだったのです。しかし、このコンセプトはあまり受け入れられず、観客も映画のキャストも、赤ん坊の外見に違和感を覚えたようです。
映画『ザ・マミー・リターンズ』で、ドウェイン・ジョンソンが演じたスコーピオン・キングのキャラクターはビジュアル的にあまり好評ではありませんでした。映画製作側は、人間とサソリをミックスしたような悪役を作り出そうとしたのですが、急ごしらえでディティールが不足していました。スコーピオン・キングは不自然に見え、彼の登場シーンに使われた照明も貧弱で、周囲の環境にそぐわないように思えました。全体的に、スコーピオン・キングに使われた視覚効果はインパクトに欠け、説得力のあるキャラクターを作り出せなかったのです。
映画のデジタルツインを作るには複雑なプロセスが必要で、そのバリエーションはあまりにも多く、ここですべてを詳しく説明することも、これまでに作られたすべてのデジタルツインをご紹介することもできません。しかし、ハリウッドの大手スタジオとは異なり、少ない予算、少ない人員、タイトなスケジュールといった限られたリソースで、映画的なデジタルツインのレプリカを作る方法の概要をご紹介することはできます。
最初のステップは写真測量と呼ばれるものです。このステップでは、デジタルツインのモデルの参考写真を何枚も撮り、これらの写真をMeshroomのようなソフトウェアに入力します。このソフトウェアは、写真をメッシュという3Dモデルに変換します。そしてこのメッシュを次のプロセスで参照していきます。
第2のステップでは、人物の頭部の3Dモデルを作成します。この作業を簡単にするには、BlenderアドオンのHuman Generator、MakeHuman、MetaHumanなどのソフトウェアを使用します。これらのツールには、プリセットの人型が用意されており、モデリングする人物に似せて調整したり微調整したりすることができます。これらのプリセットを使うことで、デジタルツインをゼロからスカルプトする必要がなくなります。
この段階では、3Dリファレンスモデル(メッシュ)と、モデリングする人物の全身写真を使用します。これらのリファレンスをソフトウェアで開き、人物のプリセットを選択します。次に、このプリセットを実際の人物に近づけるためにシェーピングを開始します。ここで、鼻筋の長さや形、眼窩の深さ、頬骨の隆起など、3Dモデルの一部を調整します。また、この段階で肌のテクスチャを選択して調整します。このプロセスは、ロールプレイングゲームやNBA 2Kのようなスポーツゲームでキャラクターを作成するのと似ています。
第3のステップでは、デジタルキャラクターの髪を作成します。頭髪、眉毛、まつ毛、顔の毛を含む髪は、キャラクタの全体的な見た目に重要な役割を果たすため、正確に表現する必要があります。キャラクタの頭部をモデリングした後、キャラクタのヘアスタイルに近いヘア・プリセットを選択し、必要に応じてカスタマイズします。これは比較的簡単な方法ですが、より複雑な方法だと、頂点グループとヘアプロパティを調整することで、より高度なカスタマイズと精度の調整が可能です。
第4のステップは、微調整のプロセスです。人間のようなキャラクターをモデリングしたところで、それがまだ完璧なデジタルツインになっているとは限りません。他の誰かに似ているかもしれないし、まったく似ていないかもしれません。そのため、この段階では、顔の微妙なディテールを作り上げるための調整を繰り返します。このプロセスでは、顔のプロポーション、目の形、唇の隆起など、細かなディテールを注意深く観察する必要があります。この段階には十分な時間をかけることが重要で、ディテールのレベルが高ければ高いほど、より説得力のある結果が得られることが多いです。なぜなら、人間の目が顔を認識するのに非常に長けており、顔の特徴のわずかな違いにも敏感であるためです。ですから、あなたのデジタルツインが、ベースとなった人物として認識されるようになるためには、細部まで正確にキャプチャすることが極めて重要なのです。
第5のステップは服装です。ほとんどの人体作成の3Dソフトには、たくさんのプリセットが用意されているので、自分のデジタルダブルに最も適した服を選んでください。
第6のステップはリギングと呼ばれるもので、デジタルツインに動きを与えます。このステップでは、デジタルツインの顔や体の関節を特定のポイントに割り当てます。このポイントによって、デジタルツインを操作して、さまざまな表情や体の動きをさせることができます。リギングは複雑ですが、実際にはすでに説明した他の手順と同じように、数多くの小さなステップから構成されています。別の記事で、リギングについて書くかもしれませんので、お楽しみに。
すべての3D要素と同様に、デジタルツインもレンダリングする必要があります。デジタルツインは、光と相互作用するポリゴン、テクスチャ、マテリアルで構成されています。そのため、デジタルツインが存在するシーンの他の3D要素とともに、2D画面に適切に表示されるように変換するためには、かなりの計算能力を必要とします。また、ハリウッドレベルのプロダクションは常にデジタルツインのリアリズムを高める努力をしており、この継続的な改善により、より強力なレンダリング能力への需要が高まっています。
映画で使われた初期のデジタルツインは、わずか2MBのメモリーしか持たないコンピューターでレンダリングされていました。今日の基準からすると笑えるほど小さいですが、これは1980年代には最先端の技術でした。これらのマシンは、現代のレンダーファームの前身でもあるのです。映画制作者やアニメーターがデジタルツインのリアリズムと精度を向上させようと努力するにつれ、複雑なフィギュアをレンダリングするためのハードウェア要件もそれに応じて増えていきました。
我々は現在、デジタルツインが活躍する視覚効果の黄金時代にいます。その普及率を考えると、映画や番組での使用は今後も増え続けるでしょう。CGIをまったく使わないことを誇りとしている『トップガン:マーベリック』のような映画は、伝統的で格式高いものかもしれません。しかしデジタルダブルとCGIがさらに進歩している現代ではこの境界はますます曖昧になっていくでしょう。視聴者がもはや何が本物で何がCGIなのかを区別できないのであれば、何が重要になってくるのでしょうか?
なんにせよ、これからもデジタルダブルは発展していくでしょう。