技術の進化で、アートの作り方、展示の仕方、人と作品のつながりそのものが変わりつつあります。 この変化をいち早く受け止め、Physical(現実空間)とVirtual(仮想空間)を自然に融合させる新しい試みを探るクリエイターが、韓国でも増えています。 そんな一人が、韓国のアーティスト兼キュレーターであるパク・サンミンです。 彼は3Dグラフィックスとクラウドレンダリングを活用し、自ら立ち上げた「Meatball and Meshed Potatoes(MaMP)」というプロジェクトを通じて、メタバース上で人々を惹きつける展覧会を実現しています。
当初は伝統的な彫刻やインスタレーションを中心に制作していたサンミンですが、その表現は次第に、3Dモデリングやゲームエンジン、分散コンピューティングといった新しい技術も取り込むようになっていきました。 とくにパンデミックによって実際の展示空間が大きく制限されたことをきっかけに、彼が立ち上げたバーチャル展示空間「MaMP」は、デジタル技術によって広がるこれからのアートのあり方を感じさせるものになっています。
今回は、ソウル大学校で美術学修士課程に在籍する彼に、これまでの制作の歩み、新しい技術を取り入れてきた背景、そしてデジタルアートの役割が今後どのように広がっていくと考えているのかについて話を聞きました。
リアルな展示空間から、バーチャルな空間へ
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サンミンが展示の企画や空間づくりに関わり始めたのは、2010年代後半に学士課程で学んでいた頃のことでした。 しかし、新型コロナウイルスの流行によって人が集まる機会が制限され、従来の展示会場も使いにくくなるなかで、彼は別の方法を模索せざるを得なくなります。
サンミンは、「COVID-19以降、実物の作品に代わる表現として制作できるように、コンピュータグラフィックスを学び始めました」と話しています。 そして3DCGを学ぶ過程で、当初の目的を超えてさまざまな表現が可能だと気づき、3Dアートをいろいろな作品に生かす方法を探るなかで、より広くデジタルメディアを扱うようになっていったといいます。
こうしたCG表現への取り組みをきっかけに、サンミンは2021年、物理的な場所の制約にとらわれないバーチャル展示場の「MaMP」を立ち上げました。 MaMPは3DCGで構築されたオンラインアートスペースで、写真のように細部まで作り込まれたビジュアルや映像を通して、実験的な作品やデジタル作品を紹介しています。
サンミンは、このバーチャル展示空間の特徴について次のように説明しています。 「MaMPでは、実在する特定の地域や空間をもとにバーチャル展示を企画しています。建物や空間を3DCGの展示会場として再構成し、さまざまな作家の作品も3DCGで実装したうえで、実際の展示空間のように見せています。」
MaMPは、プロのギャラリーのような空間の雰囲気をデジタル上で再現しています。 それによって、アーティストにとってはこれまでにない展示の場となり、見る側にとっても、想像力を働かせながらバーチャル空間を巡る新しい体験となります。
デジタルという素材で彫刻をとらえ直す
サンミンが、MaMPを構築するためにCGツールを深く使っていくなかで、作品制作そのものに対する見方も変わっていきました。 当初はあくまで目的を達成するための手段にすぎなかったものが、やがて独自の可能性を持ち、魅力的な表現媒体と変わってきたのです。
「もともとは、展示を企画したり、作品制作のためのスケッチを描いたりするために3DCGを使いたいと考えていました。しかし、学んでいくなかで、当初の目的を超えてさまざまな表現ができることに気づきました」
サンミンはその後、ユナ・ソンの《A Cicada Nymph Doesn't Fall off the Roof for no Reason》を制作し、3Dの要素を自身のスカルプト表現に取り入れていきました。この作品では、Sketchfabのような3Dモデル共有サイトにあるフォルムを使い、それに反応しあうような造形が試みられています。こうした方法によって、物理的な作品とデジタルな存在の境界は曖昧になります。そのため、見る人は素材や実体について、あらためて考えさせられるのです。
最近の展示について、サンミンは次のように話しています。 「このユナ・ソンの展示に出てくる“寄生する彫刻”は、元になった作品やことわざの意味を、そのまま表したものではありません。 むしろ、元の意味から少しずれた解釈や、意外な読み替えが加わることで、作品はより面白くなるのです。」
元の3D素材をあえて別の意味で使い、組み合わせ直すことで、サンミンは、バーチャル空間の中ではオブジェクトの意味や形が変わりうる、ということを表現しています。そこから生まれる作品は、見た目には実物のような存在感がありながら、同時にデジタルならではの柔軟さもあわせ持っています。
クラウドを活用した制作環境
MaMPのオンライン展示で表示する、作り込まれた3DCシーンや回遊できる空間をレンダリングために、サンミンはGarageFarmのようなクラウドコンピューティングのサービスを活用しています。 負荷の大きいレンダリング作業を外部のサーバーに任せられるようになったことで、制作環境は大きく変わりました。
「以前、アルバイトで短いCG映像を制作していたとき、自分のPCだけでは納期までにレンダリングを終えられないとわかり、解決策を必死に探しました。 そのとき、GarageFarmの高優先度レンダリングを使ったことで、締め切りに間に合わせることができました。以来、継続して利用しています。」
クラウドで大きな計算処理ができることは、サンミンの作品制作の大きな支えになっています。 たとえば、実際のギャラリーの写真展示のように見せるために、大量のカメラアングルでレンダリングする場面でも、クラウドを使えば重い処理を無理なく進められます。
「静止画のレンダリングであれば、基本的には個人のPCでも対応できます。 ただ、MaMPの最近の展示で使う静止画を撮るときは、3Dソフト上でカメラの位置や天候、時間帯をランダムに設定しながら、何千枚もの画像をレンダリングしました。 その作業では、静止画であってもレンダーファームを使いました。」
クラウドを活用することで、サンミンはPCによるレンダリングでの待ち時間を減らし、そのぶん制作や構想に多くの時間を使えるようになりました。
デジタルアートの可能性を広げる

MaMPのようなバーチャル展示空間が広がっていくなかで、サンミンは、デジタルアートや3Dデータの価値も今後さらに高まっていくと考えています。 新しい展示のかたちが広がることで、そうした表現の強みが、これまで以上にはっきり見えるようになるからです。
「いちばん大きく変わるのは、人々が3Dデジタルデータに対して抱く『価値感』だと思います。これまでは、3Dデータは何かを作るための単なる『過程』や『スケッチ』として見なされることが多かった。ですが、メタバースの時代には、3Dデータそのものがひとつの『完成物』であり、『オリジナル』になっていくはずです。」
実物の美術作品が「オリジナル」として固有の価値をもつように、サンミンは、バーチャル世界が広がるにつれて、3Dで制作された作品もそれ自体がひとつの作品=アーティファクトとして評価されるようになると考えています。 さらに、AR、VR、MRによる没入型のデジタル体験が今後いっそう広がることで、3Dアートの魅力はより多くの人に届き、その文化的な重要性もさらに強まっていくでしょう。
しかし、テクノロジーがアートのあり方を大きく変えつつある一方で、なお乗り越えるべき壁も残っています。未知の領域を切り開いてきた先駆者として、サンミンは現実空間と仮想空間をまたぎながら活動するなかで、さまざまな困難に直面してきました。
「最初のころは、細かな設定に関する情報や知識が足りず、専門用語もあまり分からなかったので、少し苦労しました」と彼は振り返ります。それでもサンミンは試行錯誤を重ねながら、新しいツールを自分の表現に合うかたちで柔軟に取り入れていきました。
サンミンの探求は続く
サンミンは、表現の可能性をさらに広げるために、CGIや3Dグラフィックス、インタラクティブ・シミュレーションといった新しいメディアに取り組み続けています。しかし従来の表現を手放すのではなく、現実の素材や空間とデジタルの可能性を組み合わせながら、新たな表現を模索しています。
ほかのアーティストに向けて、彼はシンプルなメッセージをくれました。「これからは、美術の分野においてデジタルアートの役割や存在感がますます大きくなっていくと思います。特に、コンピューターの性能が向上し、それが広く普及していくにつれて、デジタルメディアを用いて制作するアマチュアやプロのアーティストもさらに増えていくでしょう。」
テクノロジーの進化によって、個人でできることが広がるなかで、サンミンは、アーティストには新しさを受け入れつつも、自分ならではの視点を大切にしてほしいと語ります。3Dアプリケーションやクラウドレンダリングのようなツールを活用すれば、想像力に富んだバーチャル展示をかたちにし、新しい方法で作品を発表しながら、アートのデジタルな未来を切り開いていくことができるのです。
MaMPの作品はこちらをご覧ください:
MaMP webpage : www.meshedpotato.com
MaMP IG : https://www.instagram.com/meshedseoul/
Sangmin’s webpage : https://www.pacsangmin.com/home
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