導入事例

動きを意識したデザイン:Achat Graphicsが表現する機械仕掛けの動物

アニメーション
White grid pattern forming a stepped circular shape on transparent background.White grid lines forming a stepped circular shape on a transparent background.White grid pattern with evenly spaced horizontal and vertical lines forming squares over a transparent background, arranged in a curved lower edge.

ELEKTRAの依頼で制作されたメカニカルな動物たち

機械部品が次々と組み上がり、虎の体が形になっていく。様々な部品はそれぞれ動きながら定位置に収まり、最後には一頭の虎が完成する。別の作品では、鯉が水の中を、なめらかに泳いでいる ― ELEKTRAのプロジェクトでは、虎や鯉といった身近な動物を機械的な構造に置き換え、動きや水、光の演出によって未来的なイメージに仕上げています。

作品を制作したのは、ドイツのシュトゥットガルトを拠点とするAchat Graphicsの設立者、ヘンリー・ドレントです。ドレントは、チャーリー・スパークスが運営するレコードレーベル兼イベントブランドから依頼を受け、この作品を手がけました。ウィーン、ロサンゼルス、パリで開催されたイベントのために映像で、動物をモチーフに使うという条件がありが、それぞれの動物をどのような世界に置くかは自由に任されていました。

インダストリアルデザインと電子音楽が交わった場所

ドレントが3DCGに取り組み始めたきっかけは、インダストリアルデザインでした。HTWベルリンで学び、在学中にはデルフト工科大学でも1学期間を過ごしています。そこで身につけたのは、形のつくり方、素材の見せ方、そして製品がどのような構造で組み立てられているかを考える視点です。こうした経験は、現在の作品に見られる機械的な構造にも受け継がれています。

一方でドレントは長年、テクノDJとしてツアーを行い、自身のレコードレーベルも運営してきました。デザインと音楽は、それまで別々の活動でした。しかし2023年に映像制作へ専念するようになったことをきっかけに、二つの活動は次第に結びついていきました。

「午前3時のフロアの雰囲気や、曲がどのように展開していくかなどの感覚を、映像のテンポや動き、勢いの作り方に生かしています」— ヘンリー・ドレント

Achat Graphicsは現在、3Dアニメーション、ブランドのビジュアル制作、Webサイトのデザインを手がけています。仕事の依頼は、DJ、レコードレーベル、イベント主催者など、電子音楽に関わるクライアントが中心で、チャーリー・スパークスやTechno Germanyも、その中に含まれてます。その一方で、Monster EnergyやBrut Buildsといった、別業界のブランドの制作も手がけています。

コンクリート、機械、音から世界をつくる

ドレントは、『AKIRA』、『エイリアン』、『DOOM』、『Cyberpunk 2077』、そしてブルータリズム建築から影響を受けています。特に惹かれるのは、むき出しのコンクリート、直線的で硬い形、大きく重厚な建造物です。その傍らに立つと自分が小さく感じられる―そうした構造物に強く惹かれるそうです。

エレクトロニックミュージックのイベントでは、ドレントの好きなインダストリアルな景観が多くあります。フェスティバルのステージには、鉄骨の骨組みやコンテナ、大型スクリーン、さまざまな機材が並びます。地下のクラブでは、コンクリートの壁や配管、ケーブルがむき出しのまま使われています。ドレントは、こうした環境の中で長く活動してきたため、こういった世界観が無意識に彼の作品に表れています。

彼のプロジェクトは、まずリサーチから始まります。クライアントから具体的なムードボードが共有されない場合は、Blenderを立ち上げる前に、参考になる画像を集め、制作の方向性を固めます。行動に移すのが早いタイプだからこそ、アイデアの軸が定まる前に制作へ入ってしまわないよう、自分を抑えることもあるそうです。

「アイデアの軸を明確にして、十分にインスピレーションを準備すれば、手探りで始めて何度も修正を重ねるよりも、必ず良い仕上がりになります」— ヘンリー・ドレント

構図から組み立てる制作フロー

方向性が決まったら、Blenderでシーンを作り始めます。まず大まかな形を置き、そこから少しずつ細部を作り込んでいきます。最初に構図を決め、次にカメラの位置や画角、照明を決めます。素材の質感やアニメーションは、構図・カメラ・光によって画面全体が成立してから加えていきます。

彼の考え方はシンプルです。照明や素材を仕上げる前の段階でも物の配置やカメラからの見え方が決まっていれば、その構図は強いといえます。また、テクスチャを加える前の状態でも照明により印象がきちんと伝わるなら、その照明はうまく設定できています。この状態なら、マテリアルは画面の粗を隠すためではなく、完成度をさらに高めるために使えます。

ルックデベロップメントは、ドレントが最も得意とすることです。照明の強さや向き、素材の色や反射を少し調整するだけで、映像全体の雰囲気、奥行き、物の大きさの感じ方は大きく変わります。そのため彼は、この作業に取りかかると時間を忘れて没頭することが多いといいます。

ドレントは、3Dシーンの制作にBlenderを使っています。映像の合成や動きの最終調整はAfter Effectsで行い、デザイン作業にはPhotoshopとIllustratorを使用しています。また、制作を進める中で既存の機能では対応しきれない場面が出てきた場合には、Blender用のアドオンを自ら開発しています。

「作業の手順が面倒で、必要な作業まで後回しにしてしまうなら、その手順を見直して改善します」— ヘンリー・ドレント

彼が開発した「Audio Trigger」は、音に合わせてアニメーションを調整しやすくするBlender用アドオンです。一方の「Render Viewport」は、質感や照明を確認するためのプレビュー映像や、SNS向けの映像をすばやく作成できます。どちらも、ドレントが自身の制作中に感じた不便さを解消するために生まれました。

3Dアニメーションで動物を新たに描く

ドレントとELEKTRAのコラボレーションは、ベルリンのクリエイティブ集団Decoyを通じて始まりました。ドレントは以前からDecoyの映像を手がけており、Decoyの主催者の一人がドレントの作品を推薦してくれたのです。

各作品は、クライアントが選んだ動物、またはドレントが提案した動物をもとに制作されました。動物をモチーフに使うという条件はありますが、どのように見せるかは自由でした。そのため、SFのような世界観、機械でできたボディ、抽象的な表現、シミュレーションなどを取り入れながら、同じ映像の繰り返しにならないように制作されています。

そして動物は、ひと目で何の動物かわかるように作られていますが、そこには別の見え方も加えてあります。たとえば虎は、まず虎として認識できます。そしかしよく見ると、その体の一つ一つが機械の部品で作られていることがわかります。

生き生きと動く機械仕掛けの虎

虎の作品は、このシリーズの中でもドレントが特に気に入っていた作品で、制作をもっとも楽しんだ作品でもありました。アニメーションでは、虎の体が少しずつ組み上がっていき、数多くの部品がそれぞれに動き、やがて一体の機械仕掛けの動物となります。

難しかったのは、部品の動きに本物らしい重みを持たせることでした。どれほど精巧にモデルを作っても、部品がある場所から別の場所へただ移動するだけでは、虎が組み上がっていく場面に説得力が生まれません。

「部品は、実際の機械のような重みを感じさせながら、ぴたりとはまらなければなりません。そのため、キーフレームをかなり細かく調整し、弾力性のある機械的な動きの表現が求められました。部品がただ所定の位置まで滑っていくだけでは、何の迫力もありません」──ヘンリー・ドレント

ドレントが参考にしたのは、『トランスフォーマー』シリーズに見られる変形シーンです。小さな部品がそれぞれ役割を持って動きながら、全体としてはひとつのまとまった動きになっていくのです。

鯉のシミュレーションから得た学び

虎はもっとも楽しく制作できた作品でしたが、技術的にいちばん苦労したのは鯉でした。鯉のシーンでは、約200GBにもなる水のシミュレーションを扱う必要があり、意図した動きになるまで何度も調整を重ねました。

そのシミュレーションに多くの時間と意識を取られたため、ライティングやマテリアル、水面のシェーダーには、本来予定していたほどの十分な開発ができなかった、とドレントは感じています。彼は今でも、この作品を作り直してみたいと思っているのだそうです。この経験から、技術的に複雑な要素がひとつあるだけで、制作全体に大きな影響を与えることを実感したといいます。

作業用PCを妨げずにレンダリングする

ドレントがGarageFarm.NETを初めて使ったのは、同僚から「レンダリングはすべてこのサービスを使っている」と勧められたことがきっかけでした。虎のプロジェクトでは、まず5フレームおきに書き出すテストを実施しました。このときは、最終的に納品した映像の2倍のサンプル数でレンダリングしています。

20フレームのレンダリングは6分で完了し、費用は0.48ドルでした。この結果をもとにドレントは、サンプル数を増やした場合でも、全400フレームのレンダリング費用は10ドル以内に収まると見積もりました。ノートPCでCPUレンダリングに10日間かけるよりも、手頃な費用でレンダーファームを利用し、その間もほかの作業を進められるほうが現実的だったのです。さらに、移動中でもクライアントの仕事を受けられるようになり、機材の制約を理由に依頼を断る必要もなくなりました。

「ELEKTRAの虎は、アジアを3か月旅しているあいだに制作しました。[…]タイのパンガン島にあるジャングルのバンガローにて、グラフィックカードが壊れたノートPCで制作し、レンダリングはGarageFarmに任せました。いい作品をつくるために、ものすごく高性能な機材が必要なわけではありません。必要なのは、完成したフレームを書き出す手段です」──ヘンリー・ドレント

制作中の判断をより早く進めるために

ドレントにとって、レンダーファームの利点は、手元のPCを作業用に空けておけることです。テストレンダリングや映像の書き出しを外部で進めているあいだも、別のシーンを調整したり、新しいバージョンを準備したり、ほかのプロジェクトに取りかかったりできます。

「いちばん大きいのは、思いどおりに試せるようになったことです。テスト用のレンダリングはほとんど費用がかからないので、見た目の仕上がりや光の当たり方、質感を調整している途中でも、シーンの好きな場所を1コマだけレンダリングして、その場で確認できます」──ヘンリー・ドレント

こうした方法を使えば、調整してから仕上がりを確認するまでの時間を短くできます。とくに見た目を作り込む段階では、光の当て方や素材の質感を少し変えただけで、映像全体の印象が大きく変わるため、この速さが重要になります。

ドレントは、締め切りが迫ったタイミングで問題が起きたときも、レンダーファームのサポートチームがすぐに対応してくれる点を高く評価しています。Blender用のプラグインも普段の制作環境に取り入れやすいと感じている一方で、初めて使う人のために、Web画面上の重要な情報をもう少しわかりやすく表示してほしいと感じたそうです。

「やはり、いちばん頼りになるのはサポートです。何か問題が起きたときはサポート画面から連絡すれば、曜日や時間を問わず、たいてい数分で対応して解決してくれます。いつでも相談できるという安心感は、思っている以上に大きいものです」──ヘンリー・ドレント

クラブカルチャーを、より大きな舞台へ

ドレントは今後、Achat Graphicsをより大きなスタジオへと成長させ、ほかのアーティストとも協力しながら、さらに規模の大きなプロジェクトに取り組みたいと考えています。活動の軸はこれからもエレクトロニック・ミュージックに置きつつ、クラブカルチャーから生まれたビジュアル表現を、これまでそうした表現を取り入れてこなかったブランドや空間にも広げていく予定です。

彼は、いつかフェスティバルのステージや街の中心部に設置される、大型の屋外LEDスクリーンを手掛けたいと考えています。単に大きな映像をつくりたいわけではなく、建物や街の景色、人の行き交う様子も含めた空間のなかで、自分の作品がどう見え、どう受け取られるのかを確かめてみたいのです。

そして、クライアントワークを続けながら、制作のためのツール開発にも取り組んでいく予定です。ドレントは、レンダリングの効率化や、複雑なGeometry Nodesの設定で問題が起きたときの原因調査には、AIを活用できると考えています。一方で、作品をどんなものにするかを決めるのは、あくまで自分自身の役割だと捉えています。

「人間が担うべきは、コンセプト制作やルックデベロップメントなど、センスが問われる部分です。そこでは、やはり自分の表現を形にする力と経験が必要で、AIはほとんど役に立ちません」──ヘンリー・ドレント

ELEKTRAシリーズでは、ソフトウェアやシミュレーション、自作のアドオン、分散レンダリングのバランスが制作を支えています。ただし、動物の形や作品の雰囲気、動き方を決めているのは、あくまでドレントです。

動物たちの作品を発表したあとも、Achat Graphicsは次の制作に向けて動き続けています。次はどんな世界を描くのか、そしてエレクトロニック・ミュージックの機械的で無機質な雰囲気を、どのように生き生きとした作品に仕上げるのか、その挑戦に挑み続けています。

ヘンリー・ドレントとAchat Graphicsの作品は、以下からご覧いただけます。

Website: https://achat.graphics

Instagram: https://www.instagram.com/achat.graphics/

Superhive: https://superhivemarket.com/creators/achatgraphics

Gumroad: https://achatgraphics.gumroad.com

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